【私の原点】
小児科医の私が、なぜ、職種や世代を越えて、子育てを応援できる「わ」が大切だと思うようになったのか。
仕事上、たくさんの子どもさんやご家族と出会わせていただいてきたこともありますが、何より、生まれ育った時の経験にも、今の私の原点があると思っています。
当時、小学校の先生だった私の母が、一年間の育休が終わるころに、私を連れて公園で遊んでいる時に、「京子ちゃん」と声をかけてくれたのが、当時50代の今井のおばちゃんでした。
母が、もう少しで育休を終え、また働き始めないといけないので、私のことをどうしようか考えているということを伝えると、「それなら(面倒を)見てあげましょうか?」と言ってくださり、なんと、私が1歳になるころから、小学校に入学するまで、ほぼ毎日、日中の面倒を見てくれていました。
おじちゃんが早めに帰ってくると、夕方、お風呂に入れてくれてから、家に帰ることもあったようです。
小さい頃は(?)わりとおてんばで、木やジャングルジム、登り棒など高い所へ登るのが好きで、木に登ったはいいけど、下りられなくなって、友達のお母さんに、はしごを持ってきてもらったことも覚えています。
砂場にいろんな穴を掘って、落とし穴を作ったり、田んぼでどろ団子や基地を作ったり。
今だと禁止されてなかなかできないような遊びも含めて、子ども同士、あるいは大人の見守りの中で、本当に豊かな経験をたくさんさせていただいたことは、今でもよい思い出になっています。
また、おばちゃんが家で行う内職を見ているのも好きでした。リズミカルに丁寧に繰り返される作業がまるで職人技の様で、すごいなあ、と思いながら見ていたのを覚えています。
一日の中で、しなければならないことは、おそらくほとんどなくて。その時にしたいことをすることができるという、今から考えると、とてもありがたい時間を過ごす中で、私の原点も育まれたように思っています。
小学生、さらに中学生になると、おばちゃんの所へ遊びに行くことはめっきり少なくなってしまいましたが。働き始めてからも、何度か会いにいかせていただきました。
その中で、木や高い所へ登っていた時も、「危ないからやめなさい」とおばちゃんに言われた記憶が全くないのが不思議で、当時のことを聞いてみると、「しっかりと登っていたから、別に不安はなかったよ」と言っていただきました。
おそらく、ハラハラすることはもちろんあったかとは思いますが。温かく見守ってもらっていたのだと思います。
その後、施設に入所されて、認知症が進む中で。私のことは、あまり分からなくなっても、子どものように、レクリエーションではしゃぐおばちゃんの姿がそこにはありました。
そして、昨年、おばちゃんは亡くなられたことを聞きました。誰にも知らせることなく、お姉ちゃん(おばちゃんの娘さん)が、一人で葬儀を済まされたのを、後から母も聞いたそうです。
当時、おばちゃんが住んでいた市営住宅も、今では鉄筋のマンションが立ち並び、辺りの様子もすっかり変わってしまいました。
おばちゃんとの記憶というのは、もう私の中だけにしかないものなのかもしれませんが、家族と同じように、今も私の中で、大きな存在としてあることは、今後も変わることはないと思います。
仕事で忙しくて、精神的にも、なかなかゆとりのない母に対しては、けっこうイライラしてしまい、感情をぶつけることも多かったですが。逆に言うと、安心して、一番感情を出しやすかったのが母に対してだったのかもしれません。
そして、それは、ゆったりとした子ども時代を過ごさせてくれたおばちゃんの存在があったからこそ、より自分の思いをストレートに感じることがしやすかったのかもしれません。
おばちゃんや、その周りに住んでいた、いろんなおばちゃんやおじちゃんたち。
たくさんの方たちに見守られる中で、子ども時代を過ごせたことは、私にとっても、働く母にとっても、とてもありがたいことだったと、しみじみと感じています。
少子高齢化が急速に進み、社会の変化も早い中、働くお母さん、子育てにゆとりのないお母さんも、ますます増えています。
お産の在り方も、食や遊び、生活スタイルなど、時代や環境が変わる中で、子育てが大変になっているのは、もちろん、様々な要因があるかと思いますが。お母さん自身が幸せを感じながら、安心して子育てを楽しめるために。たとえ、身内でなくても、子どもにとっても、親にとっても安心できる存在、気軽に何でも話しやすい場が身近にあるということは、とても大きいのではないかと思っています。
思いに賛同くださり、繋がっていただいているみなさま、活動をお手伝いいただいているみなさま、今に至るまでに導き支えてくださっているみなさま、変化の大きい中でも、様々な機会を提供してくださっているみなさまに本当に感謝しています。
普段、なかなか、直接お伝えができないことも多いですが。今も、今までも、ご縁をいただけることに感謝して、これからも活動を続けさせていただきたいと思います。